大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(行コ)50号 判決 1978年7月21日

東京都文京区本郷四丁目三七番一三号

控訴人

漆原不動産株式会社

右代表者代表取締役

漆原徳蔵

右訴訟代理人弁護士

市野沢邦夫

東京都文京区本郷四丁目一五番一一号

被控訴人

本郷税務署長 榊成美

右訴訟代理人弁護士

国吉良雄

右指定代理人

比嘉毅

宮淵欣也

服部昭一

榊原万佐夫

渡部康

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四六年一二月二五日付で控訴人の昭和四四年九月一日から同四五年八月三一日までの事業年度の法人税についてした更正のうち、所得金額二〇、三八八、五〇一円を超える部分、および過少申告加算税の賦課決定のうち、金一〇、九〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(控訴代理人の陳述)

仮りに、控訴人と訴外平和光学株式会社との間の賃貸借契約の予約が認められないとしても、つぎの諸事情からみて、本件土地売渡しについては、租税特別措置法の規定により控訴人の所得の金額の計算上金一、二〇〇万円は損金算入を認められるべきものである。すなわち、控訴人は本件土地を含む九九六坪の土地を買受けるに当っては、その全部を訴外丸紅飯田株式会社(以下単に丸紅という。)に転売する予定であったが、丸紅側の都合でその内六六〇坪だけを同訴外会社に売渡すことになったため、本件土地を丸紅関連施設の建築用地に利用する方針でこれを所有することになったものである。したがって、本件土地は、取得当時は完全に販売目的がなかったものとはいえないにしても、明らかに販売の目的で取得したものともいえず、もっぱら丸紅との交渉如何によって利用方法が定まるという不確定な状態にあったものであるが、丸紅に右六六〇坪を売渡した昭和四〇年一月三〇日になって、これを事業用資産として利用せざるを得ない状況が確定したため、控訴人は、本件土地に土盛工事を行い、農地転用許可を受ける努力を重ねたが、昭和四一年ころからは道路計画の対象となっていることが具体化して転用許可が得られなくなったものである。そして、控訴人が本件土地を埼玉県に売渡す際には、担当係官から、金一、二〇〇万円の控除が得られる旨の説明を受け。控訴人もこれを信じて売買交渉が行われたのであるから、金一、二〇〇万円は、当然これを損金に算入して課税上控除されるべきである。

(被控訴代理人の陳述)

控訴人の前記主張事実中、本件土地につき、控訴人が土盛工事を行いかつ農地転用許可申請手続を行った事実は認めるが、その余の事実は知らない。金一、二〇〇万円の損金算入が認められるべきであるとの主張は争う。

(証拠関係)

控訴人は、新たに甲第五二証の一・二を提出し、当審における控訴会社代表者本人尋問の結果を援用し、被控訴人は、右甲第五二号証の一のうち官署作成部分の成立は認めるが、その余の成立は不知、同号証の二の成立は認めると述べた。

理由

当裁判所は、被控訴人のなした本件更正ならびに本件賦課決定は正当であり、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、つぎに附加するほか、原判決の理由と同一であるから、これをここに引用する。

控訴人は、仮りに、訴外平和光学株式会社との間の賃貸借契約の予約が認められないとしても、本件土地取得の目的ならびにその後の経過からみて、本件土地は事業用資金(固定資産)として、その売却につき金一、二〇〇万円の損金算入を認めるべきである旨主張し、控訴人が、本件土地に土盛工事をなし、また、農地転用許可のための申請手続をなした事実は当事者間に争いがない。

しかし、前記引用にかかる原審の認定判断から明らかな本件土地の取得に至る経緯および取得後の状況、控訴人の帳簿処理等からみて、控訴人は本件土地を自らの事業用資産として利用する意図で所有していたものではなく、販売の目的で所有していたものと推認しうるから、控訴人の右主張は採用できないし、また仮りに、本件土地を埼玉県に売渡す際、担当係官が本件土地売却につき損金算入が認められる旨の説明をしたからといって、本件土地が租税特別措置法の適用を受ける固定資産となるものではないから、右主張は失当であり、他に控訴人の主張事実を認めさせるに足りる証拠はない。

当審における控訴会社代表者尋問の結果中前記引用にかかる原判決の認定に反する部分はこれを採用できず、他に原審の認定判断を左右するに足りる証拠はない。

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 滝田薫 裁判官 鈴木弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例